2024/11/13

図学の思い出(1)


日本で高校を卒業し、大学の教養部に上がった私は、「好きな講義を選んでいい」という事に有頂天になった。受験のためとか、好きでもないものを嫌々とか、与えられた科目を無理強いで勉強しなくていいんだ!

そして選んだものの一つが、図学。
道具にお金がかかるので(確か当時でもセットで2万円位したと思う)、恐る恐る親に訊いたら、あっさり「いいよ」と言ってくれて、大喜びで受講する事にした。工学系の必修講義で文系学部生はまず取らないので、教官にも「えー、本当にやりたいの?大丈夫?」と訊かれた位、前代未聞に近かった。

提出する課題が凄く大変で、毎回何日掛かりかでやった。お手本の通りに製図するだけなんだけれど、まずはお手本を理解して、描いていく順番を解読しないといけない。「一体どっからこの線が出てくるの?!」というのも、しょっちゅう。ロットリングで墨入れ(というんだっけ?)する時は、息を止めて一本ずつ線を入れて行く感じ。

でも、ステッドラーの製図用具が素晴らしくて、びしっと描けるのに酔いしれた。
義務教育の時、コンパスで描く円がずれるのとか、線の太さが変わるのとか、コンパスの針で紙に穴が開くのとか、長さをきちんと測ろうと思っても定規の厚みのせいで上手くいかないのとか、定規で線を引くと擦れるのとか、本当に本当に嫌だったの。

ところがその先生が、講義で黒板に描く製図の美しさと言ったら!
チョークも、木製の大きな定規やコンパスも、あんなに不正確なのに、ぴしーっと決まる。「弘法筆を選ばず」とはこういう事か、と思った。

先生は絵を描かれる方で、私の課題をしみじみと眺めて「くまくん、君のは絵心があるねー」と仰って下さったのが、最高の誉め言葉で、今でも忘れられない。

* * * * *

物置きを整理していたら、課題が出てきた!
A4より僅かに大きいのか、スキャンするのに縁が少し切れてしまうのだけれど。日付が書いていないので、順番は大体です。




これは、初めての曲線に苦労したのを覚えている。

因みに、教壇で待つ先生のところに行列を作り、一人ずつ課題を見せていくのだけれど、先生は一瞥したら判るらしく、理解できなくて適当な線を入れようものなら、即座に指摘される。
そして合格だと「ま」とサインしてくれるのだけれど、工学部の友人はそれを「悪魔のま」と呼んでいた。何とかこれを消して使い回しできないものか・・・と知恵を絞っても、それは絶対に無理なんだな。













私は図学では優等生となり、試験の前は私の下宿いっぱいに、入れ替わり立ち替わりで学生が集まって、勉強会をした。
なのに私自身が一問、初歩的な問題でうっかりミスをして、教官に「あれ?くまくん、間違えたね」と言われてしまった。
(私って、いつもそう。高校の頃から、どれだけ頑張っても満点が取れない、残念な子だったのだー。)

製図用具は結局ドイツまで持って来てある。





12 件のコメント:

  1. むはははは。ぜーんぶ、覚えている!
    苦労した分、しっかり記憶に残っています~
    わいわいと、本当に楽しかった。
    私は就職してしばらくはこの技術と製図道具を
    活かすことができましたが、今やCAD… 
    でもこの手書きの楽しさは何物にも代えがたいですね。
    よくぞとってありましたねー

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    1. ひかりさん、こんにちは。
      改めてよく見たら、順番違うわ。と、並べ直しました。
      最初が二次元で、三次元は後だったね。
      本当に楽しかったねえ!図学を選んだのは、一生ものの大ヒットだったと思います♪

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  2. 素晴らしい〜!雑で大雑把な私には絶対無理〜!

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    1. Corvallisさん、こんにちは。
      お手本通りに描くだけなのですが、個性が出るのが面白いなあと思いました。兎に角楽しかったです!

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  3. もいたろう15/11/24 03:50

    とっても美しいです!
    モノクロの額縁に入れて並べたらアートになりますね♩

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    1. もいたろうさん、こんにちは。
      有難うございます♪
      そう、当時、いつかそうやって飾りたいなーと思って取っておいたのです。今は場所は幾らでもあるので、やろうかな。

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  4. 猫のシロ16/11/24 04:37

    初めまして、一瞬悪夢を見たのかと錯覚したのですが、サイクロイド、インボリュート、トロコイド・・・図学だっ!! でも見事に美しく描かれていてびっくりしました。60年近く前 機械工学の一年生だった私は、これが苦手で墨入れをすれば墨が擦れるし、墨をレザーの刃で削ればケント紙に穴が開くし、今でも夢に見ます。これほど美しく描ける学生は同級生にはいませんでし
    た。くまさんがもしかして機械設計の方に進めば、とっても美し
    い曲線の産業ロボットが誕生したかも。医院の資金繰りも大丈夫です。心配しないで。人様のためにしていることは、絶対誰かが見ていてくれてます。もうだめっと思っても、必ず助けてくれる人がいます。(私の経験より)私も自分の会社が明日倒産するというときに、ほとんどお取引のない銀行が声をかけてくれて、2億4千2百万円の借入金の肩代わりを引き受けてくれました。それも明け方の3時過ぎに電話を頂いたのです。その時私の首には、黄色と黒の天井クレーンのロープが結んであったのですが。どうか報われない仕事と思ってもあきらめずに、人様の助けになって差し上げてください。機械工学科ただ一人の女子学生だった77歳の私より。

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    1. 猫のシロさん、はじめまして。
      有難うございます。普通なら接点のなかった方からこんな経験談を聞かせて頂けるなんて、ブログをやっていてよかったなーと、しみじみ有難く思いました。
      60年前に女子で機械工学、その後自分の会社を持たれ・・・って、凄い。しかも、その巨額を肩代わりしてくれる銀行が出た、という事は、業務内容やお人柄が最高だったのだろうな、と。インタビューに伺いたい位です。
      頂いた勇気で、もうひと踏ん張り、頑張ります!
      私の時は、楽に美しく描けるよう、図学の道具が進化していたのだと思います。そして、紙を削るお話し。何とか穴が開かないように紙を削れても、その後は滲んでしまうし、かと言って修正液も美しくないし、ああー、そんなのあったなー!と。産業ロボットの道を言われたのは生まれて初めてです♪有難うございます。

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  5. わたしは「図学」だけ取って「製図」は取りませんでした。つまり理論は勉強して鉛筆では作図したけど、墨入れはやっていない、というパターンです。美しく墨入れした図を描けるくまさんを尊敬いたします。この図を額装して医院にも飾ると、思わぬ方と会話が弾んだりしそうですよね。

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    1. melisandさん、こんにちは。
      わあ、melisandさんも!隠れ図学仲間、結構いるものですねえ♪
      へえ、図学と製図が別とは。うちの大学は恐らく、二種類用意するほどの需要がなかったのでしょうね。

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  6. もくれん17/11/24 14:39

    素晴らしい〜
    いつも楽しく、頭も下がる思いで拝見しています。私は長野の田舎に住んでいます。近くのホームドクターの女医さんが印象が似ています。親しい気持ちを持ちつつ尊敬しています。

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    1. もくれんさん、こんにちは。
      うふふ、有難うございます。
      長野の田舎、いいですね~♪

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