2025/08/15

長い長い話し(2)



前回の続き)

その後、またプチ別居。
約束は、悪徳商法の如く言葉の隙をついて「故意にそういう表現をしたのだから、破っていない」と言い抜けられ。あ、そう、最初からそのつもりだったんだ。

それでもう、初めて、結婚指輪も外した。酔いの合い間に謝って懇願してきても、将来の夢物語を聞かされても、もう一切無視。
私のサポートなしには彼の体調自体も悪くなるのは判っていたけれど、それはもう仕方がない。

あんなにパパっ子だったこぐま達が、いつしか私の側につき、初めて「ママ、ぼく(わたし)のためなら、もう待たなくていい。別れていいよ」と言った。どんなに、何度裏切られても、それは言わなかったのに、遂に。
こぐま達がそこまで至った心の中を想像すると、本当に胸が潰れる思いになるけれど、こぐま達の心の整理がついたのなら、もう何も待つ必要はない。

それで、義家族にも現状をばらした。
普通にばらすとまた恨まれるので、「偶然」来て貰って、露見させ。
書類を作り始めたり、義家族とも話し合いを重ねたり。

私も流石にもう吹っ切れていて、別れようと決めたら、心が軽くなった。期待を捨てたら傷付かなくなったし、もう何とかしようとしなくていいので、ぶつかる必要もなくなって、心も擦り減らない。
しかも、少し前ならこぐま達は私についてきてくれなかったかも知れないのが、今ははっきり私の側についてくれるようになったので、それなら幾らでも頑張れる。

こぐま達の心を慰めるべく、せっせと遊びに連れ出したり、夏休みの遊びの計画を立てたり。

* * * * *

それがまあ、色々あって、また結婚指輪をはめ、3人分で立てた遊びの計画に、もう一人分を追加しているところ。
長年の友人知人や読者さんからは「なーんだ・・・」とがっかりされそうだけれど、セ・ラ・ヴィ。

でも今回は、こぐま達の心が離れたのを知って、相っ当堪えたみたい。酔いの合い間の長文チャットにも、もう誰も耳を傾けなかったどころか、初めて私の代わりにこぐま達からコテンパンに言われていたし(それ迄は、こぐま達はコロリと言いくるめられていた)。しかも義家族からも突き放され。

それでもう正に絶望のどん底にいたのが、チャンスを貰えると知って、今は本当に頑張っている。

流石にもう一度繰り返す気にはなれないので、一筆書いて貰う事にした。
ドイツでは口約束でも法的には有効なのだけれど、紙があった方がいいもの。

* * * * *

ドイツでは、依存症患者とその家族の長期的なケアは、家庭医の仕事。
たとえ入院治療に持ち込めても、退院して日常に戻り、何年何十年と付き合っていく訳で、精神科医やセラピーに行くのはせいぜい1-3箇月に1回とかなので、もっと近い立場で家庭医がケアする。

あと、これは知らない人が結構多いのだけれど、依存症で強制入院はさせられない。たとえ住居をめちゃくちゃに荒らして正体なく酔い潰れていて、救急車や警察を呼んだとしても、誰かの命の危険がない限り、連れて行ってはくれない。これね、家族は本当に絶望する。そういうところに往診したり。

病院と違って、家庭医は断れない。最後の最後まで付き合う。それもあって、私は切り捨てるのが苦手なのかも知れない。


アル中と言うと、お酒が好きで、飲んでいるうちに度を越して、それが毎日になって、いつしか依存症になってしまうイメージかも知れない。
でも、私の知っているアル中患者の大半は、そのタイプじゃない。
何かしらの生きづらさを抱えていて、その生きるか死ぬかという位の苦しさを、アルコールによって一瞬忘れる事ができる、別世界に逃げる事ができる、それで繰り返してしまうという、濫用タイプが多く、うちもそのくち。
(それが根本の解決にならないというのは、本人も重々承知している。そして酔いが覚めた時に自己嫌悪に陥って、現実世界がより辛くなるという、負のスパイラル付き。)

だから、その気持ちはわかるし、世渡り下手な「いい人」がそうなってしまう事が多い。
それでも家族にとっては、全世界と一緒に自分達の存在までシャットアウトされてしまうので、毎回毎回それを突き付けられると、精神的に凄くくるものがある。
特に子どもに対して、それだけはやっちゃいけないでしょ、と思う。


うちの場合、本人がその気になれば、離脱(禁断)症状なしに絶てるし、コントロールもできるので、そういう意味でのアル中・依存症ではなく、別の意味での依存なのね。

それなのに何故繰り返してきたのかと言うと、本人が非を全く認めていなかったから。毎回、意図的に手を出している感じで、「この、寝ても覚めてもの苦しみから、一瞬でも解放してくれる手段があり、合法で、誰に危害を及ぼす訳でもなくて、何故それがいけない」「どうせ具合が悪くてベッドから起きられなくて、何もできない状態には変わりないのだから」という考えかな。
しかも本人は「凄く近い将来(来週とか、2、3日後とか、明日とか!)には治療の成果が遂に出て、元々の苦しみがよくなる」と思い込んでいて、だから、そんなあと僅かな期間の事なんだから、飲んでも構わないだろう、と。その「効果デルデル詐欺」が既に延々と続いていたものの、それが彼が生き延びるための僅かな希望の光になっていたので、ツッコミを入れて現実を突きつけるのも難しく。

でも、あなたはそれで、私達の事までシャットアウトしている事になるんだよ。そして私達の社会生活を壊していくんだよ。どうせシャットアウトするのなら、私達は要らないよね。私達の目の前でなく、この土地を出て、遠く離れたところでやって。という家族の視点を、今回やっと解ってくれたみたい。

前は、そう思っていないけれど仕方なく口にしていたのが(それでも、その前は口が裂けても言わなかったので、当時としては大進歩だった)、今回は初めて非を認め、本人がその気になり、議論する事も殆どなく、私の言い分に全面的に同意した。

実際今は、元々の原因の治療の成果が本当に遂に出て(詐欺じゃなかった!)、体調も突然凄くよくなったのだけれど、「よくなってきて、もう必要ないから、やめる」では嫌だ、と、しっかり言っておいた。それなら、また悪い時が来たらやってもいいって事でしょ。「そんなの、もう来ないよ」と笑うのを、いや、人生には何が起きるか判らないからね。たとえ悪い時が来ても、手を出したら問答無用でおしまいにするよ、というのを、相当しつこく念押ししておいた。

* * * * *

和解(?)した日、本当に本当に久しぶりに、家族揃って晩御飯を食べた。

これまた凄く久しぶりに作ってあった、辰巳芳子さんのボロネーゼソース。時間をかけて丁寧に作ったものって、そういう味がして、心と体に染みわたる感じがする。偶然なのに、ぴったりの献立だった。
山盛りの人参サラダを添えて。

妹こぐまは目を閉じてうっとりしながら食べ、珍しくお代わりまでし、夫は恐らく幸せを噛みしめながら、ゆっくりゆっくり味わって食べていた。
兄こぐまは何度も何度も、翌日になっても、「ママのあのソース、凄くおいしかった!」と言ってくれた。

写真は敢えて撮らなかったけれど、あの幸せなごはんは、きっと全員の心に残るに違いない。

サポートは続ける事にしたけれど、長い長い戦いは、これでおしまい。私は、もう、戦わない。
そんな一筋縄でいく筈がないから、これで終わりではない、手放しで「よかった!」と喜べる訳ではないけれど、ひとまず大きな一段落。

* * * * *


兄こぐまは、今はゲームもスマホも放り出して、パパにべったりとくっついている。そりゃ、淋しかったよねえ。
私が「夏休み中は、今迄の償いとして、毎日午後からは子ども達と過ごして」と要求したの、大正解だった。

本人にとっても、自分の存在意義というものを常に感じられるのが、一番のセラピーだと思う。
そして、ちゃんとハッピーエンドにしてくれれば、こぐま達にとっても、傷を癒す学習になる。そんな学習、しなくて済むに越した事はないけれど、起こってしまった事はなかった事にはできない訳で、それならそこから最善の結果を導くしかない。

プチ家出に付き合ってくれたり、心配して支えてくれた皆様、どうも有難う。

いや、こんなしんどい道、誰にも薦めないし、この先の事はまだ判らない。実現不可能な夢物語かも知れない。それでも、やれる事はやり切ったと思える事は、家族にとっても大事だし、取り敢えず現時点では、我が家にとってベストな道を来たかなと思う。あれもこれも早まらなくてよかった。
それにしても、しぶといな、私。わはは。





12 件のコメント:

  1. さくら15/8/25 22:53

    数々の局面での、苦悩と決断。しんどい日々だったと思います。みんなで、笑顔で暮らせるというのは何者にも代え難いことですね。
    ただただ、先生とご家族のみなさまの幸せを祈っております。

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    1. さくらさん、こんにちは。
      有難うございます!こうしてわざわざ声を掛けて下さるの、本当に嬉しいです。

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  2. ひかり15/8/25 23:15

    心に残る食事… ここが原点になるとよいですね

    周りの理解、特にこぐまくん達が現状を把握してくれた
    というのが、(心の痛いことではあるけれど)
    本当に力になりますね…
    そこまで踏ん張りつづけ、やりきったくまさん。
    苦しかったろうに、ほんとうにもう…

    お相手のその気付きが普遍的に心にありつづけ、
    前向きに生きていく力になりますように!
    ご家族みなが、心から癒され、
    心から幸せを日々嚙み締められますように! 

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    1. ひかりさん、こんにちは。
      本当に、ずっと心配させているよねー。申し訳ない。
      訳がわからないうちの方が本当はいいんだろうけれど、訳がわからないのに引き離すのは無理矢理になるしねー。難しい。
      そう、本人が償いながら、皆で前向きに生きていけたらな、と。

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  3. ・お子さんの気持ちを人質に取らないでください。パパ側についた、ママ側についたことを婚姻関係のいざこざの材料に取られていること、子供は言われなくても気が付き、行動原理が変わってきます。

    ・ご主人はもともと難病による痛みをかかえてらしたと思います。とはいえ、もはや腫れ物になってしまっている存在と向き合わせることは子供をヤングケアラーにしてしまっていないでしょうか…

    ・こういう複雑な問題を抱えた人は渦中は語らず、出来事が美化できるようになってから打ち明けるので問題の早期解決ができないですよね、先生のお仕事柄よくおわかりかと思いますが…
    このようなエピソードを何年も見てきましたが、また美化されています、これは本当に「戦い」なのでしょうか…

    私はアスペルガーによるアル中の父を持ちました。介護したくないから離縁してくれと10代の頃から母に頼みましたが叶わず、母はストレスで若年性認知症になってしまいもう会話できません。

    父はアル中のまま大腸癌になり、仕方なく私が四年介護して看取りました。私はまだ30代です。

    生意気言って本当に申し訳ないのですが、早めに母艦と切り離してくれたらわたしがしなくて済んだ苦労が、まさにここにもあるように感じてならず、心がザワつき、
    書かせていただきました。

    ここはくま先生のセラピーの場でもあると承知しております。ひとりの女性、おんなのことしてのくま先生が幸せになれますよう、そしてお子さん達の人生が親に左右されることのないよう、心から祈っています。

    くま先生にはくま先生の戦い方があり、それは誰にも咎められるものではありませんね。
    ただお金や社会的地位や人の目など構わず、お子さん二人と先生が幸せになってほしいと、願っております。

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    1. まこさん、こんにちは。
      心をザワつかせてしまって、すみません。
      それなのに、私達の幸せを願って下さって、有難うございます。

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  4. 上のはまちがえました!
    辰巳さんのレシピの食卓、想像して私も幸せになりました。
    切り捨てるのが苦手なくまさんだからこそ、たどりつかれた風景ですね。(幸せのボロネーゼ、私もつくってみたくなり、辰巳さんの本をオーダーしました!)
    こどもさんたち、早く大人になった分、いっぱい甘やかしてあげてください。
    闘わないなら、負けることもない。穏やかな日々を祈ります。

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    1. Hanakoさん、こんにちは。
      はーい、甘やかし計画、色々立ててあるので、頑張ります!
      辰巳芳子さんのボロネーゼ、本当にお薦めです♪

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  5. >はっきり言って、自分がこの世からおさらばする方が、ずっと楽。なりたくて強者になった訳じゃない。弱者でいたなら、こういう悩みはなく逃げられたのに。

    前回記事での引用ですが、すごく気持ちがわかります。
    (うちのは精神が強いが身体が超虚弱な人なので、くまさんの状況とは異なりますが)

    結婚当初は、ここまで身体が弱い人だとは思わなかったんですよ〜。
    細々と共働きして、なんとか生活できればいいかな〜くらいで。
    まさか自分が大黒柱になって矢面に立たされてフルボッコにされても生き続けねばならなくなるとは。


    くまさん夫婦の場合、一神教の世界観で生きてきた人と儒教ベースの多神教で生きてきた人の隔たりが問題の根底にある気がします。
    一神教って「神と私」の関係が基本なので、「神が私を許してくれればOK」と利己的に振る舞いやすい。
    それに対して、儒教&多神教の世界観で生きていると、根底が因果応報なので利他的になり、過剰な自己犠牲に陥りやすい。
    これまでのお二人の夫婦生活、負のコンボが強かったんでしょうねえ。


    また、コメントで美化されていると表現された方がいましたが、私も毒親育ちなんで気持ちがわかります。
    子供が「もう別れていいよ」と言ってきた時は、子供も親に耐えられなくなってるんですよ。
    (私も言いましたが両親には聞き入れてもらえず負の連鎖…)

    どうして親になると子供の視点を欠いてしまうのか不思議です。
    私は子供を産まなかったので理解できませんが、母親ホルモンみたいな何かがあるのでしょうか?


    ところで、ぽるとすさんが自動翻訳でコメントを読むことを期待して書きますが、妻への妬みが根底にある場合、別な土俵で戦わないといつまで経っても劣等感は消えませんよ〜。

    敢えてものすごく嫌な言い方しますが、「年上の外国人留学生だから俺の方が上だと思っていたのに、蓋を開けたら家柄も良ければ仕事も俺よりできて社会的な地位も高くなりやがって畜生この野郎」とか僅かでも思っていたら人として大事なものを捨てることになりますから気をつけて下さいね〜。

    男性の大半が心の奥底で男尊女卑の欠片を持っているらしいんですよ。うちのもそうですが。

    私は、ぽるとすさんは医師免許を持ってるのですから、「慢性疼痛からアル中になったけれど、家族のサポートで立ち直った医者」として、似たような状況にある人々を導くためのNPOとか互助会みたいな組織を作り、そこのトップに立った方が自尊心も満たされて経験も生かせると思いますよ。

    妻と同じように働くなんて年齢的にもキャリアの点でも既に無理ゲーなんですから、キリスト教でいうなら使徒パウロみたいな立ち位置で社会に貢献することを目指した方がマシなんじゃないでしょうか。

    もちろん、そのためには前提条件として断酒○年、モラハラ禁止○年、家族との関係が良好、というのがセットですが。それが一番の難問かな?


    ちなみに、うちの人は経済的にも社会的にも弱いため、ときどき私への牽制(?)も兼ねて「自分はペットみたいだ」と自虐発言をします。
    すると私は「ペットには税金かからんわ! 行政から社会保険料の請求が来る以上、あんたはペットじゃなくて配偶者枠だわ! 自覚しろ!」と反撃してます。いちおう夫婦間は良好です。

    C'est la vie.(セ・ラヴィ)っていい言葉ですね。初めて知りました。私も使おう。

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    1. 色々書いて下さって、有難うございます。
      はい、こぐま達がどちら側につくかではなく、「別れてもいいよ」と言ったその事が、ああ、もうこれ以上は無理なんだな、と、決定打になりました。
      ところでね、ドイツってペット(犬)にも税金がかかるんですよー。わはは。

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  6. Corvallis16/8/25 05:50

    義理のご両親にも見てもらったんですね。どうやって「偶然」来てもらったのか興味があります。お子さんももう小さくありませんから色々と判断ができるようになりますよね。成長してくれないのはどこかの誰かさんだけ。。。でも、くまさんは区切りがついたとのこと、読者としてもホッとしました。

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    1. Corvallisさん、こんにちは。
      ご心配有難うございます。義両親じゃなくて、彼がオープンに話せそうな義妹二人+αに来て貰いましたー。誰かにバレれば、義家族全員に話しがいくのは当然なので。
      泥酔でも完全に醒めた時でもダメなので、一応話しはできるけれど明らかに素面ではなくて、バレた事が本人にも解って覚えているタイミングを狙って。
      ずっと前の修羅場の時、来て貰って挨拶しているうちに逃げられた事があったので、今回は玄関から寝室に直行して貰いました。

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