2022/09/10

我が家の歴史


私達が買ったのは、1822年に建てられたユダヤ人の家だった。

うちの村は1275年にヨハネ/マルタ騎士団が設立し、村の紋章も騎士団の十字。
そして30年戦争の頃から約300年間に渡り、ここに大きなユダヤ人コミュニティができ、一時期は住民の過半数がユダヤ人だった位。うちの村のユダヤ人墓地は、何とBW州で一番大きいのだと聞いて、びっくりした。
ナチの時代になっても、かなり長い間(新しい村長がナチから送り込まれる迄)、上手く共存できていた珍しい村。雲行きが怪しくなってきた頃、ユダヤ人青年グループが無事にイスラエルに脱出できた、数少ないコミュニティのうちの一つなのだ。




買った時は左上写真の状態で、向かって左半分が母屋で、右半分が納屋と地下室。納屋は木が虫食いと風雨で朽ちてきていて、もう限界近くまできていた。
そこで納屋を建て直して、下に医院、上に住居を作った訳。その際、家のシルエットはなるべく変えないようにした。

この納屋を取り壊したら、左半分の母屋が傾いてきて、工務店の社長さんが大慌てであちこちに支柱を立てて止めたり。地下室も基礎なしで建っていたので、一旦掘り下げて基礎を作ってからまた床を戻すという大変な作業をして、何とか潰さずに済んだり。
うちの前の道は道幅も狭くて急坂で、大きなトラックを停めたり荷物を置く場所も余りなく、取り壊しも主に手作業になった。職人さん達、皆よくやってくれたもんだ。




これは医院にかけてある、職人さん達への謝辞。
写真左上の作業所で壁を作って用意している。ホール一杯のこれ、全部うちの分。用意しておいたのを持って来て、一気に組み立てるの。
医院は各部屋に洗面台が必要だし、ケーブルなども非常に多く、足の踏み場もない位の配管・配線だった。




医院の待合室には、この家に住んでいたユダヤ人の家族写真と共に、家の歴史をパネルにしてかけてある。
うちの村にはユダヤの歴史を研究し保存する会があって、彼らから資料を貰って作ったの。

そしてこの度、写真の矢印の男性の子孫達が、イスラエルから遊びに来た。普通なら毎年のように来るのだけれど、コロナで暫く来られなかったんだって。




いっぱい来た!皆、凄く凄く喜んでくれた。
実はこの家を皆で買いたいと言っていた位、彼らには大切なルーツらしい。でも、外国で古い家を買っても管理できないし、もう少し放置していたらそろそろ危なくなっていたと思う。

そして、私達にこの家を売ってくれたおばあさんとその兄弟も、この家で生まれ育ち、皆この村に住んでいる。
納屋の工事が始まった時は相当悲しかったみたいだけれど、医院として生まれ変わったら、それはそれでOKになったみたい。母屋がまだ手付かずで残っているしね。

はっきり言って、全部取り壊して新しく建てた方が簡単で安く済んだのだけれど、それをしなかったのは、こういう歴史があったから。

大変だったけれど、こういう形にできて、本当によかった。





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11 件のコメント:

  1. Corvallis11/9/22 02:13

    住んでいる家に歴史があるって素敵ですね。その記録を残しているくまさんもすばらしい!元の住人の子孫が遊びに来るというのもなんだか心がほんわかしました。

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    1. Corvallisさん、こんにちは。
      イスラエルに脱出した一人の青年からこれだけの子孫が・・・と思うと、凄いですね。
      負の歴史の筈なのに、この村にはこうして子孫達がしょっちゅう訪れて、それを受け入れるグループがあって、交流が続いているんです。

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  2. ドイツ11/9/22 03:50

    素晴らしい!歴史のある家を残されてさらに元のご家族の写真と職人さんの作業風景。イスラエルから来られた親族の方たちも嬉しかっただろうな。。わが家の主人も外国育ちだけど母親がドイツ人で、ドイツに引っ越してからはあちこち母方の家族の歴史を探して義母の生まれた家を見に行ったり、遠い親族を訪ねたり、そういうことをしていました。うちの前にもこの金色のプレートがありました。ここに住んでいたユダヤ人のこと。主人にとっては父方はヨーロッパから逃げていったユダヤ系なので、ものすごく意味のあるプレートで、子どもたちにも乱雑に踏み付けたりするな、と教えています。

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    1. ドイツさん、こんにちは。
      自分が住んだ事のないところなのに、ルーツってそんなに大事なんだー・・・と、最初は驚きました。そして、この村についてユダヤ人が書いた「よき隣人、悪き時代」という本もあり、ホロコーストの歴史にも拘らず、この村はこうしてポジティブに交流できているのが凄い。彼らの笑顔が本当に素晴らしかったです。
      この「躓きの石」は、プレートでなく、柱みたいなのが深く埋め込んであるらしいです。

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    2. 追記:「柱みたいなの」と聞いていたのですが、実際に見てみたらプレートをくっつけたブロックでした。不正確な事を言って、失礼しました。

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  3. 家のルーツでくまさんと繋がるかつての子孫さん達。
    この家を通しての交流も感慨深いものがあるね。
    良い話だなぁ。激動の時代を生きた家だね。

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    1. mさん、こんにちは。
      本当にその通り、激動の時代を生きた家ですね。
      何とか残す事ができて、よかったです。

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  4. くま先生、こんにちは

    凄い!200年前の建物が人の手で蘇ってるんですね!
    きっと、たくさんの人の想いと手間がかかった素敵な医院&ご自宅ですね。
    建てた方の子孫の方が訪ねてこられるなんて、いいお話で、びっくりしちゃいました。

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    1. RINKOさん、こんにちは。
      そう言えば、家の工事について、そういう面は余り書いてこなかったなあ・・・と気付きました。また書きます!

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  5. 本当にくまさんの視点の素晴らしさに感動しました。とても考えさせられました。ううん、次の言葉が繋がらない、、、。

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    1. cocoさん、こんにちは。
      視点ですか?どこがー???
      あ、この家を見つけたのは本当によかったです!

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