2022/08/05

欧州への渡航に警告


ヨーロッパに渡航して、コロナに感染して足止めを食う日本人が増えています。
EUでも国によって規則が違い、しかも状況に応じて規則はどんどん変わるので、ひとまとめにしては言えないのですが、どうもヨーロッパの状況が日本には伝わっていないようだという事で、欧州日本人医師会から緊急提言を出しました。

ヨーロッパは規制が緩くなっているけれども、それは流行が過ぎた訳ではなく、「ウィズコロナ」になっているだけ。

ドイツでは、わざわざ医者やテスト会場に行かず、自分でテストして自主隔離する(その点は皆さん結構真面目で、ちゃんとしている)人が多くなってきているので、公表されている数字の何倍もの感染者数であると思った方がいい。
私の周囲でも、もう2回目感染というケースがかなり出て来ていて、ワクチン接種や感染を合わせて複数回繰り返す事で、全体の免疫は上がっている印象。だから家族や濃厚接触者でも感染を免れたり無症状で済む割合も、最近は高くなってきた。そういう社会でのウィズコロナ、規制緩和なのだ。

日本は今迄ずっと凄く上手に抑え込んで来たけれど、逆にそのせいで免疫のない人がとても多く、コロナが遠い存在だという印象を受ける。それでウィズコロナの社会に来て、こちらの人と同じような緩さで振る舞ったら、ひとたまりもなく感染してしまっても不思議はない。

今頃渡航する人達は大体が健康体なので、重症化する事は少ないけれど、異国の地のホテル自室隔離で一人で闘病するのはさぞ心細い事だろうと思う。旅程もめちゃくちゃ、延泊やキャンセルの費用も膨れ上がる。出張ならそれでも「仕方がない」と許容されても、旅行が休暇に収まり切らなくなれば悲惨である。

しかも日本入国には72時間以内のPCR検査陰性が必要なので、隔離期間が過ぎても陰性になるまでじっと待つしかなくなる。ネット情報では裏技のようなものも見掛けるけれど、「そういう道があるから大丈夫」などと安易に考えない方がいい。その理由は・・・

①たとえPCR検査が陰性であっても、偽陰性だったり後に陽性になったりして感染源になる事はあり得る。陰性でも確実でないのに、ましてや陽性なら線引きは更に難しく、誰に対しても「この人には感染力がない」と保証する事は難しい。 そして誤解しないで欲しいのは、「いつまでもPCR陰性にならないから帰国できない」というのは、外国のせいではなく、日本国独自の入国の条件だという事。

②ドイツ(少なくとも当BW州)では陽性になってから15日以内までは1回の感染と見做されるが、16日目からは新たな感染としてカウントされ新たな隔離が始まる。 

③某海外旅行保険会社が某領事館に問い合わせたところ、日本入国のための「回復証明書」と呼ばれているものは、「隔離期間を終えていて無症状である」では不十分で、「感染力がない」と書かないといけないそうである。また、従来のEU内の回復証明書(QRコード付き、感染から28日後に発行、90日後まで有効)ではダメなのだそうだ。 

④医師の一筆は重く、正しくない事を書けば、ドイツでは罰則のみならず医師免許を失う事だってあり得る。「ほんの1、2行のこと、書いてサインしてくれればいいのに」という問題ではないのだ。






隔離がなくなっている国もあるけれど、ドイツの隔離はまだ厳しくて、医療機関にかかる以外の外出は一切禁止なので、日常品の買い物にすら出られなくなる。 
幸いな事にコロナ差別のようなものは殆どなくて、ホテルでも大体は色々と力になってくれると思うけれど、そもそも英語のできない医者も案外多いし、最新・詳細情報などは矢張りドイツ語が出来ないとなかなか厳しいものがある。

皆に助けて貰ってお世話になるという事は、裏を返せば迷惑をかけるという事でもある。どうか安易に考える事のなきよう。



■追記
以前にも書いたけれど、症状が出てからテスト陽性になる迄に3-5日位かかるケースが、かなり多い。「テスト陰性だから、ただの夏風邪」と言い張って、まき散らして歩かないよう。規則以前に、それは良識、モラルの問題だと思う。





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14 件のコメント:

  1. イチロー5/8/22 08:15

    Freiburg の近郊Oberriedが第二の故郷です。Ergenzingenの修道院もコロナ前はよく行きました。黒森、行きたい、住みたい、食べたい、おしゃべりしたい、と熱が冷めません。
    今回くまさんの記事でドイツのコロナ事情がよくわかりました。友人知人は、おいでよと気軽に誘ってくれますが、帰国するにはこれまで以上に準備と覚悟が必要なんですね。
    有難い情報です。くまさん、はるか日本から応援しています。

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    1. イチローさん、こんにちは。
      Ergenzingenにそんな見どころの修道院があるのですか!知りませんでしたー。
      そうですね。日本の水際対策が変わらない限り、短い日程やホテル泊ではちょっとお薦めできません。

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  2. フランスに行くのもフランスから友を日本に呼ぶのも自粛しているよ。
    確かに欧州は、ウィズ・コロナになっているよね。
    日本はそうはなっていなくて、今は、感染拡大がピークを迎えています。
    全国感染者が23万〜24万人になっているところ。
    欧州どころか、東京や札幌も行くのを諦めているよ。
    くまさんの情報は、これから欧州にいかなければならない人にとって、
    ありがたいですね。ためになりましたよ。ありがとう!

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    1. mさん、こんにちは。
      最近、海外旅行保険経由のSOSが凄く多いのです。私だけじゃなくて、他の日本人医師のところにも。
      旅行者自身は「まさか私が」、こちらから見ると「かかって当たり前」で、随分温度差を感じるので、今回の緊急提言となりました。

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  3. くまさんの明解で分析的な文章、分かりやすいです。FBからこの記事にリンクを貼らせていただきました。出張や家族を訪ねる、ならばなんとかなるでしょうが、個人の旅行で、どこかでコロナをもらってきて帰国直前に陽性、なんて本当に困りますね…。長い人だと2種間近く陽性が出続けたりしますし。日本大使館•領事館からも同様のケースについての警告メールが届きました。どうにかしてーと言われても、どうにもできないですよね…。欧州間はpcrチェックがないから、言ってしまえば、陽性でも強行フライトできますが(実際陽性でフライトした話は聞いたことがあります)。

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    1. Naoさん、こんにちは。
      有難うございます!
      旅行者も出張者も、ヨーロッパのあちこちを回る方が多くて、各国で規則も違うので、色々難しいです。ドイツの隔離の事を知らずに、症状が出て陽性になってからも移動していたり・・・。
      日本へ警告を伝えてもらうべく、欧州日本人医師会から公に色々と働きかけているところです。

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  4. 海外どころか、国内旅行をする予定もする気もありませんが
    くまさんの記事を拝見して、海外と日本の立ち位置というか、
    日本がどこへ向かおうとしているのか、
    その過程でどういうリスクを取ろうとしているのか、本当に参考になりました

    他にはない為になる記事をありがとうございます
    毎日ニュースは読んでますが、海外のそういった状況、
    対する日本の現状を、これほど簡潔に論理的に纏められたニュースにはお目にかかったことがありません
    色んな記事を読んで、だいたいこういうことかと当たりを付けて、
    今日くまさんの記事を拝見し、やはりそうだったかと初めて状況が理解出来、納得できた気がします

    日本はずっとマスクを着用してきて、それぞれの範囲でそれなりの自粛を続けてきて
    元々の文化にビズも握手もない、比較的対人距離がある所作の国ですから
    さしたる政策も、方針や約束を明示する必要もなく、
    その場しのぎの「お願い」で、表面的に感染を抑えてきたのでしょうね

    でもこれからは、日本人の苦手な自己責任の世界、
    誰に甘えることも出来ず、自分の身は自分の力で守るしかない世界になりそうです
    日本人には対人距離があると書きましたが、その分心は馴れ合ってるというか
    特に年配世代の一部に、他者に甘え、お互いにもたれ合うことさえも良しとする気風が残ってるように思います
    他者を蹴落としても自分が生き残らねばという切迫感はなく、
    良くも悪くも他者との距離を縮めたがる
    他者と同じことをしていると安心、誰かと一緒に行動するのが好き
    一緒に行動している誰かは必ず自分を助けてくれる味方である、などなど

    そして、私にも以前はありましたが、表面的に見える範囲の欧米世界への憧れ
    自由や格好良さの裏にはリスクと自己責任が付いて回ること
    日本で生きてきて、あって当然と享受してきた至れり尽くせりの快適さや安全神話は
    カッコよく自由な欧米では当たり前どころか存在すらしないこと
    そういったことを、これからは、日本国内にしかいない日本人も
    身をもって知らなくてはならない時代になってきているのかもしれません


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  5. 燕さん、こんにちは。
    わー、チャットみたい!
    お褒めの言葉、有難うございます。突然明日から規制が始まる、なんて事は今迄によくあったので、これだけ規制緩和されて感染自体への恐怖が薄れてきた今でも、「飛行機に乗る」「国境を越える」という事に関して、「予定通り帰って来られなくなるかも」と、まだまだ慎重な人は決して少なくありません。「まさか自分が」ではなく「いつかかっても、おかしくない」という、その可能性をコミにして行動するというか。
    日本のお盆休み、どうなるか心配です。

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    1. おっ!ニアミス(笑)
      なんだかラッキーなことが起こりそうで嬉しいです(笑)

      日本でも、この猛暑さえなければ、
      ここまで医療も逼迫しなかったんじゃないのと思います

      うちの会社では、感染する人は同じ数人が繰り返し感染しています
      お子さんからかどうかは別にしても、やはり小学生以下のお子さんをお持ちの方や、その年代が多いです
      年代的に、一番活動範囲が広い(30代)からか
      または、よく外食、会食をする、マスクをしない、顎マスク鼻出しマスク、
      多忙による睡眠不足で免疫が下がりやすいなどの行動パターンがあるのか

      65歳以上の高齢者への外出自粛要請がでたり、
      これまでの波からも高齢者が重症化しやすいことは充分浸透しています
      この年代の親と離れて暮らす子達は今年も帰省は見送るらしく、
      帰省する子達も事前に検査してからと言ってます
      そして、そろそろ検査数も限界というか頭打ちで、
      盆明けまでダラダラこのままなのかとも思います
      時期的に、もうすぐ、ちょうどお盆すぎに
      今回の波はピークアウトするんでは?とも期待しているのですが、、、




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    2. 燕さん、こんにちは。
      同じ人が繰り返し感染ですか。それは興味深い現象ですね。医療の逼迫もですが、解熱剤が手に入りにくいというのは凄く困りますね。

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  6. penguinophile7/8/22 00:53

    現在日本に里帰り中なので、実感としてすごくよくわかります。
    今回のフライトは、PCR検査やら航空便欠航やら空港混雑やら、不安材料が多過ぎて普段の10倍は気疲れしました。
    私達は幸運にも問題なく済みましたが、かなり苦労した知人もいます。前準備が完璧でドイツ語に不自由しなくても、です。
    日本の友人に欧州方面への旅行を気軽にお勧めできる状況では全くありません。
    最近の旅行保険には、隔離費用等を補償する特約があるらしいので、行くならせめてその程度の備えは必須かも。

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    1. penguinophileさん、こんにちは。
      普段の10倍!そ、それは・・・。
      現在の日本人旅行者の罹患率だと、保険料を相当高く設定しておかないと、すぐに破綻してしまいそう。

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  7. とても参考になりました。ちらほらと日本の巡礼者がスペイン、フランス等、現地からSNSで報告が上がってきているので私もそろそろ準備をしようと思っていた矢先です。ちょっとまだ時期早々ですね。やはりもう少し待ってみようと思いました。

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  8. cocoさん、こんにちは。
    ああー、巡礼!
    歩いている間は野外なのでそんなに心配いらないと思いますが、宿泊が高リスクになるでしょうね。

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