私自身の国家試験の問題は、乞われるまま下級生にあげてしまったのだけれど、夫のが段ボールの中から出てきた!
私達の頃は、国家試験は全部で3回、プラス前試験で、実質4回だった。この第2回国家試験は5年生の終わりに受けるもので、筆記+口述。
筆記はマークシートで、毎日約4時間160問を四日間連続。範囲は、内科、外科、総合診療科、小児科、産婦人科、整形外科、神経科、精神科、皮膚科、麻酔科、耳鼻咽喉科、放射線科、眼科、泌尿器科、歯口顎外科、産業医学、社会医学、法医学、臨床病理学、薬学、疼痛ケア、公衆衛生、自然療法。初めて聞いた時には「現代の科挙かよ」と思った。
体育館に、机の端まで手が届かない位の大きな机を並べ、そこに一人ずつ座る。しかも問題の順序を変えて表紙の色が違うバージョンが二種類用意されていて交互に配られ、前後左右でカンニングできないようになっている。
入場には勿論パスポートなど写真付きの身分証明書とサインが必要だし、回答用紙にもサイン。試験中にも身分証明書の確認が回ってくる。
サイドの壁際には2列に一人、そしてステージの上にも二人の監視員が座っている。
でもどっちみち、カンニングで1点2点稼いだところで焼け石に水、時間の無駄。莫大な範囲から満遍なく出題されるので、教科書1章丸々勉強してそこからやっと1問出題とかで、山も張れず、もう淡々と只管やるしかないという感じ。
マークシートには言語力はそんなに必要ないと思う?
1問あたり90秒の計算って、楽勝だと思う?
いやいやいやいや・・・
よく判るように、番号を黄色の丸で囲んでみた。これが1問(90秒)の分量。これだけ読ませるって、えぐいよね?何回目の国歌試験だったか忘れたけれど、問題文だけで1ページ超え、つまり2ページに渡って1問というのも一度あった。それで1点だからね。
しかも言葉による引っ掛け問題もあって、一字一句もの凄く気を付けて読まないといけないし、ここに更に「AとCが正しい」とかいう複数回答にする形式の問題や、「正しくないものを選べ」とか、二重三重否定文とか、頭を混乱させるのもある。
しかも、今時何で、こんなタイプライターみたいな読みにくいフォント?!もうね、私世代のドイツの医者はきっとこれがトラウマになっていて、皆このフォント大嫌いだと思う。
まあ、短い問題とか、知っている過去問とかも混じっているので、全体としては何とか時間内に終えられるようになる訳だけれど、いやー、それにしても。
しかも基本的に二度までしか受けられないので、一度落ちてしまうと二度目のプレッシャーは半端ではなくなる。
医学部在学中の進歩というのは本当に、自分でも想像がつかない位の大きさがあって、特に最初の頃は、1年先輩というだけで、もう雲の上を歩いている人みたいな遠さがあった。こんな国家試験をこなしていく自分の姿なんて、入学当時には想像もできなかったよ。
ところが常に背水の陣で無理難題を押し付けられているうちに、「そんなの逆立ちしたって出来っこない!」というような事が、いつの間にかクリアできていく。お尻に根が生えたように勉強して、追い詰められた火事場の馬鹿力で不可能だった事を可能にできてしまって自分でも驚く、その連続。
そうして今の私がある訳。
ぐっと集中して読めば、自分の必要な情報は短時間で拾い出せるようになっているのは、やっぱり訓練の賜物なんだろう。
余談だけれど、第2回国家試験の口述試験は、学生4人対教授2人で、なんと4時間!第3回国家試験の実技口述試験なんて、公式には時間無制限だったし。そして国家試験じゃない普段の口述試験は、落とすのに遠慮がないので、もっともっと痛めつけられる。それが月に何度もある。
なので今では、テレビやラジオの取材なんかでも、「何を今更」という感じで全然緊張しなくなった。
医者なんてね、はっきり言って誰にでもなれる。天才の学問とは違い、特別な頭脳才能は不要だし、ドイツなら基本的に学費も無料だもの。
ただただ、根性。その一言に尽きるかな。というのを改めて思ったのだった。
うん、エグい!膨大なページ数にたくさんのテキスト!
返信削除国家試験、全4日間にもなるんだね。死にそう!
命に関わる仕事だしね、そう簡単には行かないね。
強い意志も必要だね。お医者さんは凄い!
mさん、こんにちは。
削除替え玉受験とかカンニングとかの話しを聞くと、全く異次元、別世界のようです。
この第2回国家試験の前は、私達は半年間休学し、閉じ籠って只管朝から晩まで試験勉強していました。
科挙って!!笑!
返信削除いやぁ、くまさんはやっぱり只者じゃない。お話を読んでいるだけでもめまい(いや、吐き気)がしそう〜!90秒で一問読んで回答でしょ?それも第二外国語で。。。うきゃーっ。口頭試験もそんなに何度もあるものなのですね。。。そんな拷問的な試験に耐えてパスしたくまさん。。。やっぱり鉄人!
papricaさん、こんにちは。
削除それだ!正に、拷問的。もうね、ちょっとやそっとじゃ動じなくもなりますよ。吐きたい位の感じではあるけれど、吐く暇なんかあるかー!という。わはは。
誰でもなれる(気力、根性があれば)…←ここが問題だわ~
返信削除これに比べれば、日本なんて、(いや、知らないけど)
甘いんだろうな~…
ひかりさん、こんにちは。
削除ドイツの国家試験制度で優れているなと思うのは、筆記2対口述1の割合での総合点になるところです。
筆記は兎に角満遍なく勉強する事が必要で、限りなく公正。口述はもっと深い掘り下げなどを見られるけれど、試験官の主観が入るので重視し過ぎはよくない。そこで、筆記でまずまずの点を取っていれば、口述だけではそう簡単に合格不合格が左右されない程度の割合になっているのです。
いや、いや、いや、を100回言いたいくらいです。(笑)
返信削除誰でもなれないですよ!やっぱり尊敬する。
そしてケンゾーを着る、ビートルズが好き、ドラムも叩く、オムレツに可愛い絵が描ける。最高ですね。くまさん。ふ、ふ、ふ。
cocoさん、こんにちは。
削除人間、追い詰められれば何でもできるもんだなーと思いました。
最高なんて仰って頂けて、元気百倍です!ふふ。
母熊さま
返信削除このドイツ式医師国家試験の問題の分量と許容される回答時間の容量の制限、試験会場に於ける監視体制の厳重さ等々、医学部の卒業生でもない私には、想像すら難しい受験情況ですね。
その昔読んだ医学部学生の学習と卒業後の格闘を、芥川賞作家が書いた小説「医学生」を思い出しました。舞台となったのは、草深き豪雪地帯に在る秋田大学医学部(秋田県秋田市昼寝)で、心ならずも、第一希望に落第した合格者ばかりが集められた二期校の新設医学部。
二期校に特有と想像される「明確な目的意識が希薄な学生達が醸し出す、頼り無くも浮遊し続ける集団心理」が実に上手く描かれているのですが、一介の読者に過ぎない私も、
「これでは、学生は国民の税金に甘えているだけでは?」と思えた側面もあったものです。
ドイツでは国家試験の問題内容や、受験体制を云々する以前に、「医師に求められる必須の資質の有無を、第三者が客観的に短時間で観察し、そのレベルを考察判定する目的に沿った出題」が十分に検討され、その手続きが厳格に規定され、且つ実行されている事実は、確かに認識しましたよ。
長時間に及ぶ、ドイツ式の医師国家試験の紹介に解説、お疲れ様でした。お元気で。
Yozakuraさま、こんにちは。
返信削除ドイツでは医学部でも学費がほぼ只に近いのと、医者がそんなに稼げる訳でもないので、そういう方向から選び選ばれた人が集まる訳ではないというのも大きいかなと思います。
Yozakuraさまも、どうぞお元気で。