2022/10/01

昔取った杵柄、そして締め日


もう何度も書いているけれど、うちの地域は元気なお年寄りが多い。そのうえ医師不足。
なので、家庭医なしにずっと生きてきて、寝たきりや看取り期になって初めて、大慌てで家庭医を探すというパターンが結構あって、「断られまくって、どこも引き受けてくれない」という人の家族が、私のところに辿り着く。

そりゃ、断るのも判る。看取り専門にやっているとまた別だけれど、家庭医としての往診というのは、全く割に合わない仕事。なので、そもそも「往診はしない」という家庭医も少なくないし、私も極力避けるようにしている。
普段の仕事だけでも既に収まり切らずに溢れているのに、そこに看取りの往診ー?自分の患者さんの最期なら仕方がない、頑張って押し込むけれど、新規でそれ「だけ」なんて・・・何でもっと早く来ないのよ。
まあ、そうなるよね。

でも、家で看取って貰えるなんて、素晴らしい。
それをしてあげたいという家族の尊い心を無駄にしたくない。
なので私は、取り敢えず話しを聞くだけのつもりだったのに、結局引き受けてしまう事が多い。

私は医学部在学中の6年間、老年科の病棟で看護助手のバイトをしていた。看護師さんの下働きだから、もの凄い汚れ仕事・力仕事のみ(こちらのお年寄りは重い人が多いのだ・・・)。
でも、その経験が今に凄く活きていて、有難い。
懐手をしないので、「こんなお医者さん、見た事ない!」と目を丸くされる事が結構あって、あの苦労もした甲斐があったというもの。




また、四半期締め日でした。これで2年半。患者番号は、もうこの村の総人口を超えている。

「ただの診察とか簡単な器機だけでも、こんなに見つけられるものなんだ!」「健診ちゃんとやってよかった!」と手応えを感じる事が、最近続いた。「家庭医というのは予防医学・早期発見が肝」というのを、つくづく身に染みて感じる。

一件など、健診で直腸触診をして一旦帰したものの、後から何となく気になって、患者さんに「やっぱり念のために一度〇〇科に行って診て貰って」と電話したら、そこで癌が見つかった。その前年の健診では気にならなかったので、多分初期の筈。
直腸触診なんて、される側の気持ちを考えると、する側にだって迷いがあったのだけれど、これで「よし、続けよう」と吹っ切れた。

勿論、上手くいった事ばかりではなく、「あそこでもう一押ししておけば、もうちょっとスムーズに行ったのにな」という事もあって、そういう反省点も心に刻みつつ、引き続きガンバロウ。





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10 件のコメント:

  1. くまさんのそのような姿勢が素晴らしいし、尊敬かつ共感します。ルーティン化して、なぁなぁに診療してしまうお医者さんだって多いのに。夫も、最近わたしの友人も、急患に駆け込んで怒られる、という経験をしました。本人たちはにっちもさっちも行かず、駆け込んだのに。夫は家に送り返されましたが、その後入院しました。友人は薬アレルギーで息ができづらい状態だったにも関わらず。これは両方ドイツでの話。スウェーデンの友人は息子さんは腹痛で何度も急患に駆け込んで、毎回、送り返され、結局、癌でした。判明するまで半年以上。こんな話を方々で聞くので、にっちもさっちも行かなくなったら、わたしの最後の頼りはくまさんなんだ、と勝手に決めているのです。ちょっと遠いけれど。なので、わたしもポテンシャル患者です!まだまだ患者数は増えそうですね!

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    1. Naoさん、こんにちは。
      診察している時に「あれ?」とちょっと心に引っ掛かっても、それがほんの小さなサインだと、診察の続きをしているうちにするりと忘れてしまう事って、結構あるのです。で、後になってその引っ掛かりを思い出したこのケースはいいのですが、他の事に紛れて消えてしまう事だってあるでしょうし、もっと意識しなくちゃと思います。

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  2. 田舎のお年寄りが多いところに住んでいるから、
    読んでいて、そうそうと思うよ。
    くまさんみたいな先生がいれば、やっぱ、すがる思いでくるだろうね。
    お医者さんとは、来る患者を拒めないもんね。
    そうは言っても偉いし、優しさがないとできない事だよね。
    ご自身の身体も気を付けてね!ファイト!

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    1. mさん、こんにちは。
      まあ、医者にもキャパがあるので、仕方がないなあとは思うのですが、看取り自体がもの凄く大変なのに、そこに医者探しで疲弊しているのを見ると、本当に気の毒になります。

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  3. 秋の紅葉2/10/22 10:24

    ご立派ですとしか言いようがありません。
    このブログ読んでる多くの方がこういうドクターが
    近くにいてくれたらと思ってるはず

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    1. 秋の紅葉さん、こんにちは。
      いえいえいえいえ。立派なんてそんなものではなくて、ただ単に一家庭医としての務めを全うしたいなと心しているだけです。

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  4. お医者さんから見ると、急に駆け込んで来るのではなく、元気なときから定期的に健診を受けてよ、と思うときもあるのかなと思います。歳を取ってきたので、どういうお医者さんとどう付き合っていくのか考えないとと思っています。

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    1. melisandさん、こんにちは。
      そうですね。もう何年も医者にかかっていなかった、という人が、病状が進んでから新規で来るのは、やっぱり凄く残念です。せめて健診だけでもやっていたら、ここまで行く前に気付けて、治療も楽だったのに・・・と。
      あと、元気なうちに知り合っておくと、比較対象があるので、「具合が悪い」と来られた時に感じがつかみやすくなります。苦しんでいる時には、ゆっくり全体像をつかむ暇がありませんしね。性格とか背景とか判っていると、「この人は相当我慢する人だから、この人の訴えには要注意」「この人は今家族が大変な時だからストレスだな」とか。

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  5. ひかり3/10/22 12:28

    主人の知り合いがつい先日、別の経過観察で医者にいって、
    最近胃が痛む、と訴えたところ、検査に回され、胃がんの
    ステージ3~4という診断をうけました。一人暮らしだったし
    なあ…でも、普段別の病気で診察受けてるのになあ…
    と複雑な思いです。

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    1. ひかりさん、こんにちは。
      あああ・・・胃がんは早期発見が難しいのよね・・・。
      色んな病気のサインって、後になれば「あれがそうだったのか」と判るのだけれど、最初の頃はよく判らない事が殆どで、取り零さないように掬い上げるのは本当に難しいと、日々反省です。

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