2023/01/14

ドイツで医者になるには


「ドイツの医学部は、入るのはとても難しいけれど、出るのはとても簡単」という言葉を伝え聞いて紹介している人がいて、その人の解釈は「入ってしまえば、あとは楽勝らしい」。他にも、「国家試験の合格率が高いから、入ってしまえば大丈夫!」という留学紹介サイトも見かけた。

それ、重要な真ん中がすっぽ抜けているので、誤解のないよう、ここに書いておきます。

出るのが簡単なのは、その前に盛大にふるい落とされていくから、そして鍛えられて慣れていくからです!

ドイツの医学部では、国家試験に相当する大きな試験が私の時代には計四つあった(一つ目の試験は国家試験という名称ではないのだけれど、大学ではなく州の試験局が取り仕切るもので、実質は国家試験と変わらない)。
それぞれ基本的に一生に2回までしか受験できず、それで通らなければ退学するしかなくなる(国家試験なので別の大学に入り直して再受験という道もない)ため、合格できる見込みがなければ、そもそも受けません。だから、国家試験の合格率自体は高い。

やめる人は大体、その一つ目の試験(2年修了時)を越えずにやめるので、その時点で同級生は半数位に減っていた。外国人クラスメイトの割合は凄く低かったので、母国語人、しかも「入るのはとても難しい」のに入れた子達の話しである。

そして、そういう試験を既に三つクリアしてきた人達が、四つ目で落ちる事はまずない。試験を重ねると勉強の仕方も判ってくるから、そんなに追い詰められなくなる。最初の試験では泣きながら勉強していたような子達が、卒業が近づく頃には結構余裕で淡々とこなしていくようになっていたりする。

「出るのは簡単」とは、そういう意味なのだー。


Physikum(一つ目の試験)後の記念撮影。
(真ん中辺りの「GK1」というのが過去問集)
今思えば全然大した事ない量だったのに、
当時はこれでいっぱいいっぱい。サバイバル気分だった。



寮を出て、勉強して・・・


(次の過去問集。教科書は大体この2-3倍はある。)


(過去問は間違えたのに印を付けておき、何度も繰り返す。)


第1回国家試験(二つ目)



また勉強して・・・





(疲れたら気分転換にCD-ROMの過去問集をやる。)


(真ん中に開いてある本は「これだけ丸暗記」の類で、説明が少ないので他の教科書で調べながら勉強する。)


 (また次の過去問集)


(留守宅の寂しがりウサギを預かった。)


(私は単語カード派、夫はポストイット派。)

第2回国家試験(三つ目、メイン)



更に勉強して・・・

第3回国家試験(四つ目、最終)


てな感じでしたー♪ 苔むす迄じゃないけれど、窓際のポトスが鬱蒼と茂る迄こういう毎日を過ごすと、出る頃にはもう息するのと同じ位自然に勉強しているし、アクシデントさえなければ合格できるのは自分で判っているので、まあ楽勝とか簡単とか言えなくもないけれど、そうなる経緯をすっぽ抜かした言葉を信じるのは、ちょっと違うかな。



関連過去記事:
普段の試験はもっとじゃんじゃん落とされて鍛えられる。
国家試験は、過去問を実際にタイムを計ってやってみて正答率を見たり、自分の勉強のスピードなど考慮して、いけると思えば受験する。それでも当日に何が起きるか判らないし、口述試験もあるし、恐ろしや恐ろしや・・・だった。





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18 件のコメント:

  1. どくとるくまさんの この記事を読んでいると
    成程な~ うわべだけをなぞった記事を全面的に信用してはいけないなと再認識しました。

    それにしても
    日本の大学では文系でありながら
    ドイツ語をマスターされて
    さらに ドイツで医師免許を取得~
    という経歴は 凡人の私には へ~っと
    感嘆するのみです。

    やはり 知能指数が高いのでしょうね。
    そして 目標に向かって努力できるというのも
    才能の一つではないかと思います。

    でも 学力だけでなく 人間的にも
    とても魅力的な方だなあ~と思いました。

    ドイツ語
    私は毎朝 NHKの講座を聴いていますが
    一向に上達している気配なし。

    コロナ以前は スイスのドイツ語圏を旅する機会が多かったので ドイツ語も少しは知っておかなくては~と思ったのです。 それでドイツ在住の日本人の方のブログを
    あれこれ楽しく拝見するようになりました。。。

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    1. nonさん、こんにちは。
      最近は、言葉をきちんと消化せずに、早とちりでの自分の解釈を加えて次に伝える人が多くて、色々と難しいなあと思います。
      早くまた自由に旅行できるようになるといいですね!

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  2. どの試験もどの資格取るにも楽勝なんてないと思うな。
    どこの国でもさ。医者に限らず、どの職業の資格を取るのは、大変だよね!
    くまさん、医者になれて良かったよね!凄いことだよ!

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    1. mさん、こんにちは。
      普通の臨床で使う医学って、研究者や芸術などのような天才的なものは不要で、やれば誰にでもできるものなんです。ただ、「やらずにできる」は、流石にちょっと無理かなと。あはは。

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  3. そりゃそうですよね。何でも簡単な国家試験は無いと思います。特に医師国家試験はどこの国も難関だと思います。命と対峙するのですからね。私は軽ーい国家資格を持っていますが、それでもやはり私なりにはがんばりましたから。



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    1. cocoさん、こんにちは。
      一つ目の試験は本当に合格できるかどうか自分でも判らない感じでしたが、二つ目以降はもう「やればできる。だからやる。」という感じで。

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  4. かなぶん14/1/23 16:39

    尊敬です!この聳える本の山を読破し試験も続々合格
    お隣で猛勉しているパパさんの横顔が兄コグマちゃん
    を彷彿とさせますね こういうパートナーの歴史があり
    今がある 素敵です 写真のクマ先生もステキです~

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    1. かなぶんさん、こんにちは。
      そう、こういう風に一緒に頑張ってきた仲なので、あんなになっても切り捨てられなかったのです。
      それにしても、二人とも若かったなー。

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  5. 合格率は母集団を見ないとですよね。過去問集が「気分転換」というのがなんとも。
    ドイツという国は、チャンスはあげます、でも一定期間/回数で芽が出なかったら進路は再考して下さい、というところがあるように思います。難関を突破して開業までこぎつけたくまさんに敬服します。

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    1. melisandさん、こんにちは。
      2回までしか受験できないという事は、1回落ちてしまうと残り1回になってしまって、そうなると精神的な重圧が恐ろしいものになってしまうので、自分が合格するレベルまで辿り着いていなければ受験を延ばすのが普通なんです。それを知らなかったら「受ければ大体合格するのか」と思っちゃいますよね。

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  6. 以前にもあったけれど、くまさんの医学生時代のサバイバル・猛烈勉強ぶり+合格・卒業に至るまでは、読んでいるだけで気分が悪くなりそうです(笑)。当時のストレス、、、拷問レベルですよね。勉強量だけでなくて、それを持続すること、休まずに走り続けること、くまさんはやはり只者ではないのです。よくまぁ、白髪になったり禿げたりしなかったなぁって感心しちゃいます。

    いやぁ。すごい。。。
    ポルトスさんの背中にのってるぬいぐるみと、くまさんがあずかっていたうさぎ(よく太ってる!)が癒やしですね〜。

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    1. papricaさん、こんにちは。
      まだ写真に撮っていなかった最初の2年は凄く大変だったけれど、一つ目の試験の後はもう慣れっこになっていたので大丈夫でしたよー。ただ、白髪とか禿げにはならなかったけれど、歯を食いしばり過ぎて臼歯が全滅しました。
      このウサギ、二匹だったのが一匹になってから凄く寂しがりになって、この毛皮を舐めているんだけど、舐め返してくれないから人間が・・・。ごはん食べたのを忘れて「貰ってないぞー!」と家を蹴って催促するような超おじいちゃんウサギでした。

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  7. くま先生、こんにちは

    この量の過去問題集、しかもドイツ語!
    凄いなぁ〜くま先生。尊敬します!
    大変な努力の先に今があるのですよねー
    入ってしまえば…などとは失礼な!
    超凡人の私など、このブログに辿り着いてなかったら接点などなかったことでしょう。
    勉強もさることながら、くま先生の素晴らしいところは、そのお人柄。
    なにより患者さんに寄り添ってらっしゃる。そして、家族も大事にされているところです。
    しかもお忙しい中、見ず知らずの私のコメントにもお返事いただき、コロナ療養中にはご心配もいただきました。大変ありがたいことです。
    コロナ禍の中で始まったワクチン接種、なんだか不安の中で、ふと立ち寄ったブログにしたコメント。まさかお返事をいただけるとは思わずびっくりいたしました。
    私のお医者様に対するイメージが変わった瞬間でした。
    くま先生のお料理や異国の地のお写真、子ぐまちゃん達にも癒され、ブログは楽しみになっております。♬
    今回のお写真、問題集にもですが、おみ足の美しさに目が止まりましたよ〜
    つい、足長っ!と呟いてしまいました。笑

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    1. RINKOさん、こんにちは。
      嬉しいお言葉ありがとうございます!
      私は皆様のコメントから元気や力を頂いているので、お互い様なんです。
      昔、生理学の講義での教授の「人間がいいだけで無能な医者だったら要らない!無能な医者は害をなす!それなら隣のおばちゃんの方が無害なだけましだ!」という言葉を胸に刻んでいます。

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  8. なつみ15/1/23 17:44

    くまさま、こんにちは。

    読んでいるだけで頭がクラクラと...。
    日本の医学部は学費が高く、資金面で進学を
    断念する人もいるでしょうが、ドイツはそのようなことが
    ないのですね。意欲があればだれにでも門戸は開かれている
    ということでしょうか。

    お若い時のくまさんも可愛いですが、今のほうがもっと美しいですね。内面の美しさのようなものを感じます^^

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    1. なつみさま、こんにちは。
      ドイツは学費ただなんですよー。私の時は、事務手数料が半年に数千円くらいでした。なので、夫は国からの奨学金みたいなのと児童手当だけで、親からの仕送りはゼロで卒業までいきました。
      今のほうが・・・なんて、嬉しい!段々歳を感じるようになってきてトホホだったので。

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  9. フランスでは大学に入るのは簡単ですが。
    医学部も
    法科もそれも教養の1年目の成績が悪ければ。やめさせられます。
    人の命を預かるのだから。それぐらい厳しくてもいいということからだそうです。
    大学だけでなく。
    小学校の一年から落第もある(近頃は少なくなりましたが)
    国のこと。
    教育費こそ安いけど。内容はこれぐらい厳しくてもいいじゃないかと思うのですが。。

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    1. fuskさん、こんにちは。
      1年目でやめさせられるのかー。それは留学生には結構きついなあ。でもまあ、確かに最初の1、2年が勝負で、それで大体判りますね。

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